自然界においてウイルスは悪者扱いされてしまいがちですが、本来ウイルスは生命体の体内に共存し、その生命体が健全であれば増殖は抑制され、外見上は何もなく生命活動を続けられるのです。
人間にもさまざまなウイルスが体内にあり、元気であれば免疫力によって調和が保たれています。そうして見ればウイルスとは自然界の必要悪のようなもので、弱ったものは滅びるという自然の摂理そのものといえるでしょう。
ですから我々趣味家にとってウイルスには最低限の注意をはらうことは大切ですが、必要以上に神経をとがらせるよりも、いかに環境を整え株を健全に育てるかに心を傾けるべきです。
これは同じ株のマスデバリアを植え替え株分けしたものです。
②の小さな株は根も少なく植え替え後しばらくしてウイルス病の症状が新葉のよじれとかすれ模様に出ています。
①の親株の新葉には全く異常はみられません。
ということは、もともとこの株にはウイルスがあったということです。バルブを持たないマスデバリアなどのランでは夏越しの後や植え替え後の生理障害によって急激にウイルスの活性化が起こり、株は急速に弱まり、出てくる新葉にそれが顕著に現れます。
また、ウイルスの伝染力は人間のサーズウイルス、エイズ、風邪などと同じ様に潜伏期間よりも発病著しい時が伝染力が強くなり、要注意です。そのような症状著しい株は隔離すべきです。
しかし、棚下の陽の当たらない所では症状を悪化させてしまうことになるので、水やりや器具の殺菌には気を配り他の株よりも環境を整えてあげればウイルスの沈静化も可能です。それでも改善の見込みのない株は処分するしかないのが現状です。
しかしながらウイルスの顕著な③の株であっても手厚い看病で元気を取り戻して新葉も成長後は多数の花を咲かせることが出来ます。これがいわゆるマスキングされた状態ですが、自然界の摂理からすれば健全な株であって、ウイルスを体内に全く持つことなく生きている株は、自然界からすれば異常なのかもしれません。
文明が進むにつれ人間界でも様々なウイルスやガン細胞が活躍の場を広げています。そしてランと同じ様に人間も重なるストレスや不安に笑顔を失うことで体内の免疫力が弱まり病気になるのです。
ランにとって雑多な温室は、人間にすれば、北国から南国の人種を狭い室内に閉じ込めて、同じ食事や環境、通じない言葉、そして愛し合うこと(花にとっての受粉)さえ許されずに生きて行くのと大差ないことではないでしょうか。